行きつけの店に物を申した話

俺がおよそ15年の間、週に1~2回のペースで通っている地元のラーメン屋がある。
カウンターのみで席数は15ほど。
スタッフは若いお兄ちゃんが常時3人いる。
スタッフの在籍数は多いようで、曜日によって勤務する3人の組み合わせはバラバラ。

ラーメンは横浜家系。
家系の例に漏れず、味の【濃い・普通・薄い】、麺の【固い・普通・柔らかい】、脂の【多い・普通・少ない】は好みで選べる。
そしてその好みは食券を渡すときに必ずスタッフに聞かれる。
さすがに俺は15年も通っているので、「いつもの」と言うだけでほとんどのスタッフが理解してくれる状態である。

この店は禁煙で、入り口の外側に灰皿が置いてある。
カウンター内にある調理場には強力な換気扇が据え付けてある。
強力ということは、それなりの吸気を必要とする。
入り口の扉は常に開放しているので、入り口付近でタバコを吸う人がいると、店内はあっという間にタバコ臭くなる。
スープの風味がタバコの香りでやられる。
喫煙者の俺でもこれは辛い。
一体何のために禁煙店にしているのだろう。
その灰皿は喫煙所という意味ではなく、これから店に入る人のタバコを消すためだけの灰皿だろうと。
これは以前から抱いていた疑問だった。

数ヶ月前、初見のスタッフがいた。
仮にAとしておこう。
その後Aが何回か働いているところを見たが、麺あげをやっていることもあった。
ゆえに、系列店から移籍してきたのかもしれないが、新人ではないということ。

しかしAの接客が悪い。

ある日のこと。
店に入る。
食券を買う。
俺はタバコの香りの件があるので、できるだけ奥の空席に座ることにしている。
Aが「こちらへどうぞ」と入り口付近の席を指示してきた。
永く通っているが、席を指示されたのはこれが初めて。
店内は入り口付近に2人座っていただけ。
掃除をする等、奥の席を使わせたくない理由があるのだろうと思って、その指示には従った。
しかし、何をするわけでもなく…。

ラーメンにはライスと漬物がサービスで付く。
漬物は丼に入って、カウンターの上に置いてある。
食べたい人が好きなだけ取るシステム。
接客として、ライスと一緒に漬物の丼を提供するべきだと思うし、他のスタッフはいつもそうしてくれる。
しかしAだけはライスを提供するのみで漬物には一切触れず。
漬物が欲しかった俺は席を立ち、歩いて何席か離れたところに放置されている漬物丼を取り、茶碗に盛り、またそれを元に戻しに席を立つ。
首をかしげながら。

俺が食べている最中に他の2人組のお客さんが入ってきた。
食券を買って、Aに指示されて俺の近くに座る。
お客さんが食券を出す。
Aが「お好みは?」と言う。
お客さんはポカーンとしている。
どうやら一見さんらしい。
店内には「お好み」として、上記3種類の3択が書いたパネルがあるのだが、Aはそれを案内することもなく回答を待っている。
そして「普通でいいですか?」と。
お前、おかしいだろ。

この日は覚えてるだけでこの3つのダメ出しポイントがあった。

そして今夜。

Aが麺をあげていた。

俺は一番奥の席に座る。
客は俺の先に3人いただけで、今日は暇そうな感じ。

俺の「いつもの」が出てきた。
いつものようにまずスープを味わう。

………ん????

なんだ、このスープ。
全然奥行きが無いぞ。

首をかしげながらも、食べる。

食べてる最中にカウンターの中で、Aが寸胴を洗い始めた。
Aはなかなか大柄で、レスラーで言えば田上明みたいな体型。
きっとなかなか合う白衣のズボンも無いのだろう。
客に背を向けてしゃがんで、一生懸命洗っているのもわかる。
でも半ケツが見えてるよ?

さらに首をかしげながらも、スープまで完食。
残すのは嫌いだから。

もうガマンできない。
今夜の3人のスタッフの中で、一番古くから働いているチーフクラスのスタッフ(仮にBとします)に告げよう。

Bは洗い物をしていたが、客は増えてないし大丈夫だろうってタイミングで俺が身支度を済ませ席を立ち、いつも通りの「ごちそうさま」の一言。
そしてBに声をかける。
「ちょっと時間ある?」と。

2人で店の外へ。

店内に聞こえないくらいのボリュームで会話を始める。

B「どうかされましたか?」

俺「まず、今日のスープ、どうしたの?」

B「あ……、申し訳ありません」

俺「俺の体調が悪いのかもしれないけど、奥行きがまったく無いように感じたよ」

B「うちのスープは、作り方の都合上、お客様の入り方ですごくバラついてしまうんです。そして今日は特別暇で…。本当に申し訳ありません」

俺「まぁ、そういう理由なら仕方ないと思うけど、今日のは今までで一番ってくらいダメでビックリした」

B「はい、ここ何年かで今日は一番暇な日です。いつもなら注ぎ足し注ぎ足しで、スープの水準が一定に保てるのですが…」

俺「そこは課題にしておいてね」

B「はい、わかりました」

俺「…で、このチャンスなんで、俺が一番言いたいことを言います」

B「こうやってお話できる機会は滅多にないので、何なりと仰ってください」

俺「今、麺あげやってるスタッフ。彼の接客なんだけど…」

B「やっぱりダメですか…?」

俺「やっぱり…ってことは、すでに他の客からクレーム上がってるの?」

B「いや、クレームまではありませんでしたが、自分の気づいたことは厳しく言ってます」

俺「まず今日。俺が食べてる最中にしゃがんで寸胴を洗ってたけど、半ケツだったよ?」

B「申し訳ありません!」

俺「そしてもう1つ。ライス頼んだら、出すときに漬物を一緒に出すよね? 彼はそれをしない。客が席を立って漬物を取りに行くという状況が生まれてます」

B「申し訳ありません! 自分が色々と彼に言って、彼も直すって言って努力はしているんですが、まだまだ足りてませんね…」

俺「まだまだあるけど、彼には一から接客を学んでもらった方がいいと思うよ」

B「はい、わかりました。貴重な意見ありがとうございます!」

俺「ついでなんで、もう1つだけいいかな?」

B「え……、あ、どうぞ!」

俺「そこの灰皿なんだけど」

B「はい」

俺「俺も喫煙者です。だけど、そこに灰皿があると、食後にそこでお客さんがタバコを吸ってしまい、店内がタバコ臭くなる。これじゃ禁煙店の意味ないよ。タバコを吸ってる俺でも、せっかくのスープの風味が損なわれるのはわかるもん」

B「わかりました。急いで対策します」

俺「うん、よろしくね。必ずまた来るから」

以上。

ホントはまだ言いたいことがあったけど、今日はこんなもんでいいかな。

次に行くのが楽しみ。